歌鳥のブログ『Title-Back』

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【小説】天の光はすべて星

 タイトルだけだとなんの感想だかわからないので、頭にジャンルをつけることにしました。まあ多分8割がた音楽になると思いますが。

 さて。
 ちょっと珍しい体験をした、ような気がします。

天の光はすべて星/フレドリック・ブラウン ハヤカワ文庫

 1953年発表。古き良きSFの古典です。すくなくとも時代的には。

 宇宙開発が過去のものとなりつつある(作品が書かれた頃から見れば)未来、1997年。
 そんな現状にうんざりしていた元宇宙飛行士のマックスは、ある上院議員候補が『木星探査計画』を公約に掲げていることを知ります。わずかな希望を見出したマックスは候補に取り入り、自分がパイロットとなることを条件に、選挙への協力を約束。星への熱望に取り憑かれたように、マックスは行動を開始します。

 体調崩してたり、具合悪いままフラフラの頭で読んでたりして、読み終えるのに時間がかかってしまいました。
 で……「読み終えた直後に抱いた感想を、その数時間後に全面撤回する」という、歌鳥としては貴重な体験をすることになりました。以下、ネタバレ含むので空行入れます。






 最初は「切ない話だなー」と思ったのです。
 ありとあらゆる障害を排除して、ようやくたどり着けると思った矢先の挫折。しかもその原因が自分自身だったという……。あまりにも皮肉な、あまりにも悲しい結末。
 他人が栄光をつかむその瞬間を、その目に見せつけられるラストシーンは、読んでいて心苦しいものでした。少年の無邪気さが救いであり、同時にもの悲しさを強調させる存在でもあり。
「こんな悲しい物語を、わざわざ長編で書くなんてなー」などと思いつつ、同時に恋人である上院議員に対するマックスの態度に納得いかないものを感じたりもしました。

 で……そのことがきっかけで、思い出したのです。読み始めた当初の感想を。
 読み始めた当初、私は「なんだこの主人公、気に入らねー」と思っていたのです。
 主人公マックスの、偏執狂的な星への渇望。目的のためには手段を選ばない強引さ。己の欲望のために周囲を振り回す身勝手さ。純真さと紙一重の狂気。
 あんまり友達にはなりたくないタイプです。
 こいつは好きになれない、と、読み始めた直後にそう思っていたのでした。
 前述したとおり、読むのに時間がかかってしまったため、私はそのことをすっかり忘れていたのです。読み終えて数時間後に思い出して、直前まで持っていた感想が180度ひっくり返りました。
 このお話は悲劇などではありません。バカが暴走のあげくに自爆する、コメディです。

 そんな視点で思い起こしてみると、主人公がいかにダメ人間か、という証拠がそこかしこに見られます。
 大きな点で言えば、・恋人の死を「目的のためには仕方なかった」と納得してしまう身勝手さ。・挫折のきっかけとなった、クソくだらない虚栄心のためについた嘘。の、2点でしょうか。これだけでもう充分にダメ人間です。
 マックスの人格については、これ以外にも途中でぽつぽつと語られていました。途中で間をおいて読んだせいで、その部分を無意識にキャンセルして、強引に主人公に同調しちゃってたんですね。
 ……そうだよなー。ブラウンだもんなー。ブラッドベリじゃないもんなー。
 星への憧れだけで長編書くなんて、ブラウンがするわけないですよね。皮肉と悪意に満ちた短編の名手が。

 国語の授業って大事だなー、と思いました。教師の解説に納得いかなくても、「他の感想があるかもしれない」ということを学ぶだけでも価値があります。私のこの感想だって、決して正解というわけではないでしょうし。
 それと……マックスの挫折を笑うことは簡単ですが、似たような虚栄心は誰でも持ってるもんです。私だって嘘つくことはあります。問題は、自分でついた嘘を自分で信じちゃうことです。ああ気をつけよう、気をつけよう……。