歌鳥のブログ『Title-Back』

歌鳥の小説やら感想やらなにやらのブログです。よしなに。

小説(その他)

【意味がわかると怖い話】99%の崩壊

意味がわかると怖い話『99%の崩壊』 テレビの実録番組で、DNA鑑定の話題が出た。 妻の浮気を疑ったことは一度もない。だが鑑定には興味があった。おなじ番組を見ていた妻もノリノリで「試してみよう」という話になった。俺・妻・息子の3人分のサンプ…

十枚入り封筒198円

十枚入り封筒198円 「長谷川さん、ご気分はいかがですか?」 個室のドアを開けた。ベッドに腰かけていた長谷川さんは、こっちを向いてにっこりして、それから首をかしげた。「ええと、どなただったかしら……?」「ヘルパーの結城ですよ。いい加減覚えてく…

卒業の日に打ち明けた本当のこと

卒業の日に打ち明けた本当のこと 「ねえみんな、ちょっと聞いて」 卒業式の余韻でざわついていた教室は、その一言でふっと静かになった。クラスメートたちは一斉に口をつぐんで、教壇に注目した。「私、みんなに黙ってたことがあるんだ」

【意味がわかると怖い話】角の民族

意味がわかると怖い話『角の民族』 飛行機が墜落して3日。ジャングルをさまよったあげく、私はどうにか小さな集落にたどり着いた。 住民は突然現れた私に驚いていた。だが敵意がないことを示すと、すぐに暖かく迎え入れてくれた。 片言の現地語と身振り手振…

【ここにいない由佳里】あけまして短編:お正月のリボン

あけまして短編『お正月のリボン』 たしか小1の冬だったと思う。舞のお兄さんが、私たちを近くの神社へ初詣に連れていってくれた。 鳥居の手前で、お兄さんは友達を見つけて離れていった。舞はちょっと寂しそうだったけど、私は3人だけでお参りできること…

【意味がわかると怖い話】見守る母

見守る母 とあるアパートの一室。テーブルを挟んで、娘と父親が向かい合っている。娘は高校の制服姿、手に卒業証書を収めた筒を握っている。 お父さん。今日の卒業式、来てくれてありがとう。仕事忙しいのに、大変だったでしょ。 男手ひとつで私を育ててくれ…

おなかに記念品

あけまして短編『おなかに記念品』 「ねえ舞、藍音」 1月3日の夕方、由佳里は思いつめた様子でやってきた。 「どうしよう、これ」 そう言って開いたお財布には、お札がぎっしり。 「由佳里、どこ襲ってきたわけ?」 「犯罪者?」 「どこも襲ってないし、拾…

おあずけまいちゃん

あけまして短編「おあずけまいちゃん」 舞は3日の午後、晴れ着姿で帰ってきた。 「うわっ、まいちゃんかわい~!」 「本当にかわいい。どうしたの、それ?」 家の前で待っていた由佳里と私は、舞の晴れ着を口々に賞賛した。けど、 「……」 舞はなにも答えな…

【過去作品サルベージ】マウスtoマウス

あけまして短編「マウスtoマウス」 「じゃじゃーんっ!!」 派手な効果音とポーズつきで紹介されたのは、妙な飾りのついたマウスだった。 「何、これ……?」 「リアルマウスですっ!」 もともとがネズミに似た形状のマウス。彼女のパソコンに付属しているそ…

【ここにいない由佳里】【断片】テスト明けのドロップキック

テスト明けのドロップキック 「由佳里ちゃん、遅い」 「うん。何してるんだろ」 がらんとした昇降口で、私と舞は待ちぼうけていた。 中間テストの最終日。採点の都合だとかで、放課後は学校に残ってはいけないことになっていた。部活動も禁止。テストから解…

【ここにいない由佳里】【断片】おいしそうな匂い

おいしそうな匂い 「ねえ」 「ん?」 「私たち、なんでここにいるわけ?」 「なんでって、雨だからじゃん」 「じゃなくて。なんで向こうのベンチじゃなくて、ここにいるわけ?」 「え、えっと……なんでだろ?」 中一の、たしか七月の終わりごろだったと思う。…

【ここにいない由佳里】【断片】自転車の王子さま

自転車の王子さま 「ただいま」 言いたくないけど、言った。 「あんた、こんな時間まで何やってたの」 母はリビングのソファーに寝そべって、熱心にスマホをいじくっていた。テレビがつけっぱなしだったけど、ぜんぜん見てない。もちろん、わたしの方なんて…

【ここにいない由佳里】【断片】アイスの歯ごたえ

アイスの歯ごたえ ショッピングセンターの真ん中で、私たちは右往左往していた。 「たぶん、このへんだと思うんだけど」 「あっちのビルじゃない? なんかそれっぽい看板出てるじゃん」 「あれ違う。あの紫の看板はピザ屋さん」 “尾雛に新しいアイスクリーム…

【ここにいない由佳里】【断片】ぴょん。

ぴょん。 放課後。私は帰り支度をしていた。由佳里は体操服に着替えていて、舞はノートを、なにか大事なものみたいに両手で抱きしめていた。 「今日は三人ばらばらか~。珍しいじゃん」 「ごめんね波戸ちゃん、一緒に行けなくって」 「うん、でもちょうどよ…

【ここにいない由佳里】【断片】マーブルな日

マーブルな日 「どの指?」 「どれでもいーよ」 由佳里は笑顔でそう答えて、両手の指を全部、舞に差し出した。舞はすこし迷ってから、左手の小指を選んだ。 「こうして見ると、由佳里の指、細いよね」 「そうかなー? 藍音のが指細くない?」 「二人とも指、…

【ここにいない由佳里】表紙が変わりました。

なんか月1ブログになりつつありますが。どーも歌鳥です。 先日の記事にてご案内しておりました、メディバン様主催の表紙絵コンテスト(https://medibang.com/medibangcover)。無事、〆切を迎えまして。 歌鳥の小説『ここにいない由佳里・1』は、3人の絵…

【ここにいない由佳里】期間限定で無料配信します。

先日お知らせしました、メディバン様の『投稿作品表紙絵コンテスト』にあわせまして。 応募していただくためには、とりあえず読んでいただかないといけないわけで。 うちでも断片を公開してますし、メディバン様のサンプルでも半分くらいは読めるのですが、…

【ここにいない由佳里】表紙絵コンテストに参加中です。

メディバン投稿作品表紙絵コンテスト https://medibang.com/medibangcover と、このようなイベントが開催されてまして。 歌鳥の作品 『ここにいない由佳里・1 運命だからしょうがない』 が、投稿対象作品に選ばれています。 私は美的センスが皆無なので、こ…

【ここにいない由佳里】妬かない神様

あけまして短編「妬かない神様」 受験生にお正月はない、と言うけれど。 去年のお正月は、ちゃんと初詣に行った。 朝6時に集合。近所の坂の上で初日の出を見てから、近所のお稲荷さんにお参りした。それから駅前に戻って、塾までの時間をハンバーガーショッ…

クライマックスの檻

クライマックスの檻 若い男のコートの前を開くと、シャツが赤く染まっている。傷口を見るまでもなく、手遅れだとわかる。帽子の男は無言で立ち上がる。 『待てよ。俺を見捨てるのか』 若い男が、恨めしそうに帽子の男を見上げる。 帽子の男は、隠しポケット…

【断片】【ここにいない由佳里】アイ・マイ・ミー・マイン

アイ・マイ・ミー・マイン 中一の五月。学校帰りのがじゃまる公園に、その子は突然現れた。 「ひぁぁぁぁっ!」 ベンチに座っていた由佳里が、悲鳴をあげて立ち上がった。 「なにやってるの?」 「な、な、な、なんか足に触ったっ!」 私と舞が呆然としてい…

【断片】【ここにいない由佳里】がじゃまるの木

がじゃまるの木 本当の名前は“州上野西水道道路横オルガン児童公園”。 緑道沿いには小さな公園がたくさんあって、わかりやすくするためか、それぞれに楽器の名前がついている。なぜ楽器なのか、なぜオルガンなのかは、よくわからない。 この公園が“がじゃま…

【過去作品サルベージ】正義の生贄

正義の生贄 心のどこかで準備ができてたんだろう。鋭い痛みが背中に走っても驚かなかった。あわてたり、悲鳴をあげたりもしなかった。 すぐに振り向いたけど、ホームの雑踏。終点の駅で降りる客はあまりにも多く、そして屋根の外は雨。誰もが傘を持ってる。…

【断片】【ここにいない由佳里】恥ずかしい誓い

「“口臭は五日、体臭は十日”」 学校帰り、舞がふと立ち止まって、薬局の壁に貼ってあるポスターの文字を読み上げた。 「……」 由佳里はそのポスターをじっと見つめてから、言った。 「懲役?」 「ぷっ」舞が吹き出した。 「普通に“治るまでこのくらいかかりま…

【断片】【ここにいない由佳里】好きにしてあげる

好きにしてあげる 私たちが小五になった時、変化が起きた。 「……なにこれ」 掲示板に張り出された表を見て、由佳里は呆然としていた。 「変だよ。おかしいよ、こんなの」 「……ばらばら」 その隣では、舞が同じような表情で立ちすくんでいる。 きっと、私も同…

【断片】【ここにいない由佳里】白と、ちょっとだけ朱色な日

白と、ちょっとだけ朱色な日 舞は絵が得意だ。小一ではじめて会った時からずっと、そうだった。 『天才』とか『大人顔負け』というほどではなく、小学生らしいレベルの絵ではある。けど、舞の描く絵には独特の雰囲気があって、見る人みんなを感心させた。私…

【断片】【ここにいない由佳里】自己言及のパラドックス

自己言及のパラドックス 中三の春休み。図書館に行く準備をしていたら、由佳里からメールが届いた。 『大事な話があるの。すぐ家に来て』 絵文字も顔文字もない、いつになく真面目なメールだった。 由佳里の家に行ってみると、同じくメールで呼び出された舞…

【断片】【ここにいない由佳里】桜の数を数える方法

桜の数を数える方法 「1,2,3,4……」 時間ぴったりに、待ち合わせ場所に着いた。先に来ていた舞は、斜め上を見あげて、なにか数えていた。 「おはよ」 「9,10,おはよ、12,13,14……」 一心不乱にカウントを続けて、こっちを見ようともしない…

【断片】【ここにいない由佳里】ジャアク男爵、ピュアスターダストを褒める

ジャアク男爵、ピュアスターダストを褒める 舞がはじめて眼鏡をかけてきたのは、小六の夏休みだった。 その日は一緒に塾に行く約束で、近所の公園で待ち合わせしていた。いつもは遅れてくる由佳里が、その日に限って一番先に来ていた。二人で時間をつぶして…

【断片】【ここにいない由佳里】おーいえー。

おーいえー。 中一の冬、期末テスト間近のある朝のこと。 「おっはよー」 由佳里は教室に入るとすぐ、私と舞の席にやってきた。 「ねーねー、英語の宿題やった?」 「やったよ。もちろん」と私。 「いえーす」と舞。 「ムズくなかった? ムズいよね、英語」 …