歌鳥のブログ『Title-Back』

歌鳥の小説やら感想やらなにやらのブログです。よしなに。

おなかに記念品

   あけまして短編『おなかに記念品』

「ねえ舞、藍音」
 1月3日の夕方、由佳里は思いつめた様子でやってきた。
「どうしよう、これ」
 そう言って開いたお財布には、お札がぎっしり。
「由佳里、どこ襲ってきたわけ?」
「犯罪者?」
「どこも襲ってないし、拾ったんでもないって」
 それは、中1の冬休みのこと。
 年末年始、由佳里は大忙しだった。バスケ部は30日まで練習があって、年明けは4日から。大晦日から3日までの4日間で、由佳里は両親それぞれの実家と親戚の家を、駆け足で回ったらしい。
「全部の家でお年玉もらってさ、気づいたらこんなんなってた」
「それ全部持ってきたわけ? 家に置いてきなさいよ」
「ん~、なんかノリで」
 数えてみたら、10万円以上あった。
「ねえ、これどうしよっか?」
「どうって、好きに使えばいいじゃない」
「貯金とか」
「じゃなくてさ~。せっかくこんなにあるんだから、なんか有意義なことに使いたいじゃん」
「有意義って?」
「わかんないけど、なんか記念になること。10万記念」
「えげつないよ、それ」
 そんなわけで、もう日もくれた駅前に3人で出かけた。
 街はとんでもなく賑わっていた。初売りセールとかで、いろんなお店で安売りしているらしい。
「由佳里、シューズ欲しがってなかった?」
「ゲーム安いよ。2割引だって」
 私と舞の提案に、由佳里は納得しなかった。
「じゃなくって、なんか3人で使えるのがいいんだよね」
「ストラップみたいな?」
 と、舞が自分の携帯ストラップをゆらゆらさせる。
「ストラップはあるから、なんか別のがいいな。ん~」
 悩みながら歩いていた由佳里は、突然「そうだ!」と叫んで、私と舞を駅ビルの洋菓子店に引っ張っていった。
「これ! これ買う!」
 そう言って指さしたのは、地元の地名が書かれたマドレーヌ。
産品だ。
「……は?」
 呆れる私たちに、由佳里は喜々として説明した。
「田舎行く前に、お母さんがいっぱい買ってたんだよ。すっごいおいしそうだな~って思ってたのに、お母さん向こうで全部配っちゃってさ」
「そりゃそうでしょ。お土産なわけだし」
「普通、お土産は自分で食べない」
「だからだよ!」
 と、由佳里は得意げに胸を張った。
「2人とも、これ食べたことないでしょ?」
「……」
 私と舞は顔を見合わせた。確かに、地元のお土産なんて、食べる機会はそんなにない。
「ほら~! だからいいんじゃん! すみませ~ん、これください!」
 由佳里は結局、マドレーヌのいちばん小さい詰め合わせを買った。もちろん10万円もするわけじゃないけど、由佳里はそれで満足そうだった。
 3人で由佳里の家に寄って、紅茶といっしょにマドレーヌを食べた。ふわふわで甘くて、いい匂いがした。
「美味」
「ん、おいし~♪」
 舞と由佳里は満足げだったけど、私はまだ納得できなかった。
「確かにおいしいけど、これのどこが記念なわけ? 食べちゃったら、どこにも残らないじゃない」
「んなことないって。ほら、ここに残るって」
 と、由佳里は自分のお腹をぽんぽん叩いた。
「ぷっ」舞が吹き出した。
「……そんな記念品、すっごく嫌」
 私は顔をしかめた。
 やっぱり納得はできなかったけど、結局は由佳里のお金なのだから、私に文句は言えない。
 それに、由佳里らしいお金の使い方だな、とは思う。
「あ、忘れてた。2人とも、あけおめ」
「今さら?」
「あけおめ、由佳里ちゃん」




 というわけで、今年のお正月用短編です。
 この調子で毎年由佳里たちに登場してもらっていたら、そのうち小1から中3までの9年間使い切っちゃいそうです。
 すでに3回使ってるからあと6年……。6年の間に、どうにかして本編を終わらせないと。

 帰省もしていないのにお腹に記念品が溜まっている歌鳥でした。
 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。