歌鳥のブログ『Title-Back』

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【意味がわかると怖い話】見守る母

   見守る母

 とあるアパートの一室。テーブルを挟んで、娘と父親が向かい合っている。娘は高校の制服姿、手に卒業証書を収めた筒を握っている。

 

 お父さん。今日の卒業式、来てくれてありがとう。仕事忙しいのに、大変だったでしょ。
 男手ひとつで私を育ててくれたこと、本当に感謝してる。火傷のこととか、高1の事件の時とか、たくさん苦労かけたよね。ごめんね。
 それでね……いい機会だから、話しておこうと思って。
 私、お父さんに内緒にしてたことがあるんだ。

 私、お母さんに会ったことがあるの。
 一度だけじゃなく、何度も。

 

 

 お願い、なにも言わないで。少し黙って聞いて。
 うん、わかってる。そんなはずないって。
 でも本当なんだ。私、お母さんに会ったんだよ。

 

 最初は、幼稚園の入園式の時。
 門のところで写真撮ってくれたでしょ。その時、お父さんの後ろに女の人が立ってたの。
 ――ほら、お母さんの写真、残ってないでしょ。お母さんと一緒に、火事で全部焼けちゃったんだよね。
 私も物心つく前だったから、私、お母さんの顔覚えてない。そのはずなんだ。
 でもね。入園式の日、その女の人を見た時、私すぐわかったんだよ。この人がお母さんだ、って。
 お母さん、笑ってた。泣きながら笑って、私のこと見てた。
 私、すぐお父さんに教えようとしたの。けどお母さんが人差し指で(しーっ)ってやったから、あ、言っちゃいけないんだ、と思って。
 それで、ただ手を振るだけにしたの。お母さん、すごく嬉しそうに笑って、手を振り返してくれた。

 

 それからも時々、お母さんは私に会いに来てくれたんだ。
 小学校の入学式は、保護者席の後ろのほうに座ってた。中学の時は校門の前で、電柱の影に隠れるみたいにして。
 中二の時、私の火傷の痕のせいで、クラスの子にいじめられたでしょ。
 あの時も私、お母さんに会ったんだ。帰り道、私が泣きながら歩いてたら、途中で待っててくれたの。お母さん、私のことぎゅって抱きしめて、ぽんぽんって頭叩いてくれた。「大丈夫だよ」って言うみたいに。
 それから二、三日して、いじめは嘘みたいに治まっちゃた。
 先生やお父さんが協力してくれたから、っていうのももちろんだけど――私、お母さんもなにかで手伝ってくれたんじゃないかって思ってる。

 

 高一の時もそう。うん、あの事件の時。
 警察の人は「正当防衛」って言ってくれたし、お父さんにもそう説明したけど……ごめんね。私、嘘ついてた。
 あの時――公園で、いきなりあいつに押し倒された時。
 私、何もできなかった。突然だったし、真っ暗だったし、周りに誰もいなかったし。それにあいつ、ナイフみたいの持ってたし。
 びっくりして、怖くて、手も足もすくんじゃって。「逃げよう」なんて思いつかなかったし、抵抗なんてできるはずなかった。
 そしたら――急にあいつが動かなくなって。
 気がついたら、あいつも私も血だらけで。あいつが頭からだらだら血を流して、ぐったりしてて。そばに血のついた大きな石が転がってた。
 そして、誰かの足音が聞こえた気がしたの。走って遠ざかる足音。
 姿は見えなかったけど、私、お母さんが助けてくれたんだって思ってる。
 もちろん、誰にも言わなかったよ。「死んだお母さんが助けてくれました」なんて、誰も信じてくれないもんね。
 あいつは死んじゃったけど、私、怖いとは思わない。お母さんが助けてくれなかったら、私、ひどい目に遭ってただろうから。

 

 ふふっ、びっくりした?
 信じてもらえないかも。でもね、本当のことなんだ。
 実はね……今日の卒業式にも、お母さんいたんだよ。保護者席のいちばん後ろ。お父さんの真後ろの席。ふふっ。お父さん、気づかなかったでしょ?
 明るい色のスーツ着て、胸にお花つけて。白髪が増えて、ちょっと老けて見えたけど、あれは確かにお母さんだった。手を振ったら、嬉しそうに笑って手を振り返してくれた。入園式の時みたいにね。

 

 今まで黙ってて、ごめんね。
 私ももう大人だし、今日で卒業だし。いい機会だから、話しておこうと思って。お母さんには口止めされてたけど、きっと許してくれるよね。
 今度お母さんに会ったら、お父さんにも教えるね。

 

 父親は娘に言われたとおり、黙って聞いていた。娘が話を終えると、父は青ざめた顔で口を開いた。
「実は……父さんも、お前に黙っていたことが――」
 父がそう言いかけた時、窓の外から車の走り去る音が聞こえた。

 

 

 

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 ということで、久々の新作です。久々すぎて書き方忘れてる……。

 はてなブログさんはいろいろ特殊なので、編集の練習も兼ねてます。空行作れないし、斜体はあんまり斜めになってくれないし。仕方ないので文字色変えてみましたが、どうでしょ。読みづらいとかあったらご指摘ください。

 ネタ的には……今回ちょっとズルいことやってます。

 大元のネタは単純ですが、枝葉にちょこちょこと空白があります。そこのところは空想で埋めていただくしかありません。ヒントは出してあるので、あれこれ想像してお楽しみください。

 

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