歌鳥のブログ『Title-Back』

歌鳥の小説やら感想やらなにやらのブログです。よしなに。

【過去作品サルベージ】マウスtoマウス

   あけまして短編「マウスtoマウス」

「じゃじゃーんっ!!」
 派手な効果音とポーズつきで紹介されたのは、妙な飾りのついたマウスだった。
「何、これ……?」
「リアルマウスですっ!」
 もともとがネズミに似た形状のマウス。彼女のパソコンに付属しているそれは、灰色で
よりネズミっぽい。そこに加えて彼女は、頭と脚、そして長いしっぽをつけたのだった。
「リアルマウス……ねえ」
「はいっ!」
 自分の新しい発明品(?)を紹介するとき、彼女はなぜか敬語になる。つきあって何年
にもなるのに、この癖はいまだに変わらないらしい。
「これはですねー、手足にちいさいタイヤが忍ばせてあってですね、こうやって転がすと
……」
 彼女は机のうえでマウスを動かしてみせた。
「ほらっ、手足が動くのです!」
 マウスの動きに連動して、小さな四本の脚がかたかた動く。おまけに、どんな仕掛けか
は知らないけど、目まで赤く光った。
「ねっ、すごいでしょ~っ!?」
 確かに、よく出来てはいる。いるんだけど……。
「ちょっと……使いづらそうだな」
「そうですか~?」
「うん……それにちょっと気持ち悪いし」
 リアルマウス、というだけあって、粘土で作ったらしい顔は本物のネズミそっくり。
ちゃんとヒゲまで生えている。うまく出来ているぶん、かえって不気味だった。
 ──かわいくデフォルメするとか、そんなことは考えなかったのだろうか。
「そうかな~。かわいいと思うけどな~」
 彼女はがっくりと肩を落として、本物そっくりのマウスの頭を指先で撫でている。背中
を丸めたうしろ姿が、ハムスターみたいに頼りなく見えた。
「……まあ、でも、すごいじゃん。気に入ったよ」
 僕は彼女にそう告げた。ほかに何て言える?
 彼女は顔を上げて、うるんだ瞳で僕を見た。
「本当ですかっ!?」
「うん。よく見ると結構かわいいし」
「でしょ~っ!?」
 彼女の顔がぱっと明るくなった。嬉しそうに何度もうなずきながら、彼女は机の引出し
から、ちいさな紙袋をとりだした。
「はいっ、じゃあこれ、おみやげ!」
 開けて覗いてみると、中にはバラバラになったネズミの頭と手足が。
「……何これ?」
「リアルマウスセットです!」
 彼女は自慢げに胸を張った。
「このセットを装着するだけで、あなたの家のマウスがリアルマウスに早変わりするの
ですっ!!」

「じゃ、またね~っ!」
 玄関の前に立って、満面の笑みで手を振る彼女。しばらく歩いてから振り向いたときに
も、彼女はまだ勢いよく手を振っていた。
 角の手前でもう一度立ち止まり、手を振りかえす。角を曲がってしまうと、もう彼女の
姿は見えない。
 僕は重い荷物を背負いなおした。デイパックの中には着替えと同僚へのおみやげ、それ
に彼女のリアルマウスセットがちゃっかりと収まっている。
 ──今から1時間後には、僕は夜行バスに乗っているだろう。
 短い正月休みも今日で終わり。次に彼女と会うのは夏休みか、それとももっと先か。
 それまでの間、僕たちはメールかボイスチャットで会話することになる。僕たちのパソ
コンが――マウスが――二人をつなげてくれるわけだ。
「リアルマウス、ねえ……」
 気持ち悪いけど、使いづらそうだけど……まあ、すぐに慣れるだろう。
 もう一度デイパックを背負いなおしてから、僕はバス停へ向かって歩きはじめた。


 更新日時が2008年の1月になっているので、たぶんその年のお正月用短編です。古いですね。
 過去作品漁っていたら出てきたので、年の瀬に載せておきます。……というかいい加減新作を書かなければ。それ以前に来年の正月用のあけまして短編、まだネタすら考えていない……。

 ええと、皆様よいお年を。来年もよろしくお願いします。