【本】ルーフォック・オルメスの冒険
具合が悪い時にはブログを書く、という習性の私です。
最近変な本ばかり読んでいるなあ……と思いつつ、極めつけに変な本の感想を。フランスのユーモア作家カミによる、シャーロック・ホームズのパロディです。
名探偵ルーフォック・オルメスの元に持ちこまれる事件は、奇妙でイカれたものばかり。「自分の頭蓋骨を盗まれた」と主張する男。童謡を歌いながら息絶えた老人と、その横で死んだ若い女。巨大な赤ん坊に襲われ、殺された牛乳屋……。聞いただけでも頭がおかしくなりそうな数々の事件を、オルメスは天才的な頭脳でことごとく解決してゆきます。
タイトルについては、↑サイトの紹介文を一部引用します。
“名探偵ルーフォック・オルメス氏。オルメスとはホームズのフランス風の読み方。シャーロックならぬルーフォックは「ちょっといかれた」を意味する。”
個人的には、「ちょっと」というのは控えめな表現ではないかと。事件そのものも、それを解決に導くオルメスの手法も、どちらも相当イカれてます。
そして、相当下らないです。
どのくらい下らないかというと、吉本新喜劇と同レベル……と言うと怒られるかしら。
全部で34編もあるので、中のひとつをネタバレさせていただきますと……“「電波」の波に乗って、空をボートで逃走する盗賊団”とかが登場します。徹頭徹尾、隅から隅までこのレベルの下らなさです。
この下らなさがクセになります。
下らなさの半分くらいは下らないダジャレで構成されてまして、こりゃ訳者さんはそうとう苦労されただろうなーと。
で、時々、その訳者さんによる注釈が入ります。これがまた結構面白くてですね。
“~と読者は思っただろう。訳者も思った。いや、別にそれだけである。――訳者”
ここでリアルにコーヒー吹きました。
カミの他の作品と同様、この本も戯曲風の形式になっています。
よって、発言者の名前が行頭に提示されるのですが、この名前がこんな具合でして。
虫も殺さぬ顔の盗賊
嗅ぎ煙草を鼻に詰めたプロンプター
事態にあわてた産婦人科医
このネーミング、往年の名作RPG『ボクと魔王』に登場した「決意するおねーさん」などを思い出させます。
画像は拾い物です。古いゲームなので許して……。
で、途中から登場人物を『ボクと魔王』のキャラっぽく脳内変換しながら読みました。これがまたドはまりで。形式は戯曲ですが、人形劇のほうが向いてるかも。
全34の短編は、大きく2つに分けられています。
『ルーフォック・オルメス、向かうところ敵なし』と題された前半は、オルメスの有能さをひたすら誇示するお話。そして後半は『怪人スペクトラと戦う』のタイトルどおり、天才的犯罪者とオルメスとの壮絶な戦いが描かれています。
そう。下らないと言いつつ、意外としっかりしたストーリー展開がなされているのです。
特に後半、宿敵スペクトラとの戦いは本当にスリリング。一進一退、捕まえては逃げられるスペクトラとの頭脳戦は、本家ホームズとモリアーティ教授との対決を上回る白熱ぶりです。……というか、本家の教授ってあんまり出てきませんが。
最後の短編、スペクトラとの最終決着が描かれる『巨大なインク壺の謎』がいちばん好きです。こんな状況になれば私も傑作が書けるかしら、とか思いながら……。