歌鳥のブログ『Title-Back』

歌鳥の小説やら感想やらなにやらのブログです。よしなに。

企画倒れの橋

 暑くてちょっと頭がアレなので、かなりどうでもいいお話を。
 その昔、某所に投稿した話です。その某所が閉鎖されてしまったようなので、改めて書き直します。


 ↑はぐーぐるさんのストリートビューです。東武東上線志木駅南口ロータリーの一角に飛びます。
 正面に、アーチ型のオブジェが見えると思います。

 このオブジェ、正式名称を“虹の架け橋”といいます。

 なぜそんなことを知ってるかといいますと、このオブジェができた時、この近所に住んでいたからです。当時カタギの会社員だった私は、毎日このオブジェの前を通って、駅に通っておりました。
 確かアーチの一部か土台部分に、この正式名称が書かれているはずです。
 ですが私は、このオブジェを密かに脳内で

   企画倒れの橋

 と呼んでいました。

 なぜそう呼んでいたか。それは次のような経緯によります。


・第1ラウンド

 このオブジェ、実はただのオブジェではありません。
 ストリートビューで確認するのは難しいでしょうが、このオブジェ、アーチの上部に小さな穴がいくつか開いています。
 本来、この穴からは水が出るはずでした。下の土台部分が池のようになり、水を受け止める受け皿になるはずでした。
 そう、このオブジェは、実は噴水なのです。

 実際、オブジェが完成した当日は、ここから水が出ていました。
 アーチ上部から放たれた水は、数本の筋となって、下の池に落ちる……はずだったのですが。

 その日は、朝から強風でした。
 朝、駅へ向かう私が目にしたのは、アーチから放たれた水が風に煽られ、そこら中を水浸しにしている光景でした。
 当然、歩道はびっしょびしょ。誰もがそこ部分を避けて通っていました。

 帰りにここを通った時には、水は止められていました。

・第2ラウンド

 その後数日間、水は止まったままでした。
 が、このオブジェの担当者(誰だか知りませんが、たぶん市役所の人)は、水を出すのを諦めてはいなかったようです。
 ある日の朝、私はオブジェの土台部分に、プラスチック製の衝立が立っているのを目撃しました。
 そして、アーチは誇らしげに水を放っていました。
 たとえ風に煽られても、水が衝立でせき止められ、歩道をびしょ濡れにするのを防いでくれる……と、担当者はそう考えたのでしょう。

 が、衝立の高さはほんの3~40センチほど。
 その程度の高さで水の氾濫を防ぐのは、ちょっと無理な相談でした。

 そして間の悪いことに、この日も風の強い日だったのです。
 アーチが放つ水流は、相変わらず土台を派手に外れ、衝立なんぞものともせずに、歩道にまき散らされていました。

 夜にここを通った時には、やっぱり水は止められていました。

・最終ラウンド

 その後しばらく、アーチは動きを見せませんでした。
 担当者もさすがに諦めたのかな、もうただのオブジェとしての存在価値しかないのかな……と、私は半ば残念、半ば面白がりながら、毎日このオブジェを観察していました。
 が、担当者は諦めていませんでした。
 最後の最後に、決定打とも言える解決策を持ってきたのです。

 その日、オブジェはパイプを装備しました。
 透明な、細いプラスチックのパイプが数本。アーチ上部の穴から、まっすぐ垂直に下がっています。
 アーチから放たれた水は、このパイプの中を通って、下の受け皿に落ちる仕組みです。

 完璧なアイディアでした。
 パイプの出口は、受け皿の30センチほど上。例の衝立と同じか、それより低い位置にあります。これなら、嵐の日でも水が外に漏れる心配はないでしょう。
 担当者は、遂に究極の解決法を見出したのです。

 が。

 どうやら、パイプを支える金具の強度が足りなかったようです。
 私がその朝見た光景は、パイプが全部落下して、アーチから斜めにはみ出している――というものでした。
 アーチからは水が出しっぱなし。しかも悪いことに、水は斜めになったパイプに遮られ、パイプ表面を伝わって、受け皿の外へと流れ出ていました。
 この日は風がなかったにも関わらず、歩道はびっしょびしょでした。

 その夜には三度水が止められ、以後、アーチから水が流れることはありませんでした。


 たぶん今でも、このオブジェの上部には穴が開いているはずです。
 土台のどこかに蛇口があって、ひねると水が出るはずです。
 私はその後しばらくして引っ越してしまい、志木駅を使うことがなくなりました。
 なので、もしかするとその後、アーチから水が流れることがあったかもしれません。諦めきれない担当者さんが、何らかの秘策を持って、このアーチの復活に挑んだことがあったかもしれません。
 が、今現在、ストリートビューの映像は水を流していません。

 以上、かなりどうでもいい“企画倒れの橋”の思い出でした。
 この程度の規模でも、企画が企画通り行くのはこんなに難しいのでした。そりゃ国家規模の箱ものとか「失敗しました、てへ」じゃ済まないよなー……とか、無理やり時事ネタにつなげてみたりして。