歌鳥のブログ『Title-Back』

歌鳥の小説やら感想やらなにやらのブログです。よしなに。

【本】アイヴォリー ―ある象牙の物語―


 とってもご無沙汰してしまいました。こんなに間空けたのは新記録じゃなかろうか。

 ご無沙汰している間に、個人的にも世間的にもいろいろありまして。ちょうどその間に読んだ本に、タイミング的にぴったりの言葉があったので、ご紹介がてら感想を。

 銀河歴6304年。動物調査の専門家ダンカン・ロハスは、ある男から奇妙な調査を依頼されます。“最後のマサイ族”を自称するマンダカは、三千年以上行方知れずとなっている『キリマンジャロ・エレファントの牙』を探していると言います。調査を始めたダンカンは、この牙の途方もなく長い歴史と、驚くべき運命を知ることになります――。

 再々々々々々々々々々々々々々……読です。レズニック翻訳出ないなあ……。

 あらすじは↑の通りなのですが、主人公はダンカンでもマンダカでもなく、牙です。
 で、この牙そのものはフィクションではなく、実在するものでして。本の冒頭に、恐ろしく巨大な牙の写真が載っています。普通の象の牙は1メートルくらいだと思いますが、この牙は全長3メートル、重さ90キロ超(あとがき参照しました)。控えめに言っても化け物です。
 この牙の持ち主キリマンジャロ・エレファントが1898年に死んで以後、七千年の間に、牙は次々と所有者を変えながら存在し続けます。その所有者たちを主人公とする12のエピソード、それとダンカンが牙を追い求める経緯を描く“幕間”によって、この本は構成されています。

 で、そのエピソードのひとつ。近未来ケニアの選挙騒動を描いた『政治家』の章で、印象的なセリフを見つけました。とある大統領候補者の選挙参謀が、助手に向けて言った言葉です。

「民衆にはそれ相応の指導者がつくものだ」

 読むたびに「う~ん」と唸らされるセリフですが、このタイミングで読むと胸に刺さります。
 なるほどなあ。つまり今のアメリカにはトランプがふさわしく、日本には安倍がふさわしいのでしょう。
 最近はツイッターのおかげで、自民党を支持している人たちがどんなことを考えているのか、なんとなくわかるようになってきました。まあ「支持」というか「盲信」というか……。議員が何かやらかした時に、彼らが必死に、全力で擁護する姿は、滑稽でもあり痛々しくもあり。いくら支持政党だからって、擁護しなきゃいけない理由はないはずなんですけどねえ。まあ私のhttp://blogs.yahoo.co.jp/songbird_i/37323355.htmlの見解を裏付けてくれているので、ツイッターは大変ありがたい存在です。
 この『政治家』の章には、なんとなくトランプを彷彿とさせる強硬な(そして愚かな)候補が登場します。彼には秀逸で痛快なオチが用意されていますが、現実は小説より奇ですね。と、さらに閑話休題
 他のエピソードもそれぞれが秀逸で。時に痛快、時に悲しいエピソードが12個。特に最後の、ダンカンとマンダカ、そして牙をめぐる物語は、読むたびに切なく、胸にきます。
 この本でもうひとつ、強烈な印象を残したセリフがあります。

「心なんか動かされないままのほうがよかった」

 結末近くのダンカンのセリフです。彼がどのように心を動かされたかは、ぜひ本書をお読みいただいて……って絶版ですけど。

 歌鳥史に残したい傑作です。が……ひとつだけ不満なのが、いちばん最初のエピソードがいちばん面白いものだ、という点。
 牙の所有者はテンボ・レイボン。マサイ族の末裔である彼は、自らの所有する酒場の特別室に、他の宝物と共に牙を飾っています。その部屋は賭場にもなっていて、日夜さまざまな異星人たちがギャンブルに興じていました。その日集まった賭博師の1人、ほぼスカンピンとなったアイアンテスが、レイボンにとある申し出をして――。
 この『賭博師』の章のインパクトが強すぎて、ほかが若干霞んでしまいます。
 ギャンブルって恐ろしいですね。フィクションで、しかも遠い未来、遠い宇宙の果ての物語なのに、普段賭け事とは縁のない私が、ここまで興奮させられるわけで……と、また時事ネタに走りそうなので、このへんで。