歌鳥のブログ『Title-Back』

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【あけまして短編】題材と個性

   あけまして短編「題材と個性」

 冬休みの3日め、ワタシたちは珍しく部活に出た。
「先生、こんにちはー」「失礼します」(しまーす)
「あ、来たわね三人衆」
 美術準備室では、春日野先生が1人でカップ麺を食べていた。
「先生、美術室の鍵をお借りしたいんですけど」
 鳥飼さんがそう言うと、先生は割り箸で奥の扉を指した。
「美術室? 鍵なら開いてるから、勝手に入っていいわよ」
「あ、そ、そげですか……」
「それで先生、あの……今日はピーちゃんは?」
「ピーちゃんなら、美術室でお散歩してるわ」
 もそもそとラーメンを食べる先生を残して、ワタシたちは美術室に入った。
「あ、本当。鍵開いとるばい」
 廊下のドアを開け閉めしながら、麻生さんは呆れていた。
「不用心ねえ。高価なものも結構あるのに。絵の具とか」
(石膏像とか)
「空、石膏像なんて欲しがるの先生だけばい」
 窓際では、ピーちゃんが日向ぼっこをしていた。
「おっ、ピーちゃんおったばい。ピーちゃ~ん!」
「麻生さん、大声出すと逃げられちゃうわよ」
 ピーちゃんは、先生が飼っているニワトリ。よく学校に連れて来られて、美術室で放し飼いにされている。
「家でお留守番しとらんで、よかったやんねぇ」
(うんうん)
「じゃあ、早速始めましょうか」
 ――1時間後。ワタシたちはまた準備室に戻った。
「あのー、戸締まりするので、鍵を……」
 先生は何かの書類を書いているところだった。冬休み期間中でも、先生は忙しいのだ。
「あ、もう終わったの? いいわよ戸締まりなんて、開けっ放しで」
「先生、さすがに不用心すぎじゃなかとですか?」
 また麻生さんが呆れて言うと、先生は肩をすくめた。
「だって、どうせすぐ誰か来るもの」
「……はい?」
「3人とも、ピーちゃんの絵描きに来たんでしょ?」
 先生は苦笑いしながら、ボールペンの先で美術室を指した。
「今朝は空閑さんと大葉さんが来たし、お昼には根岸兄妹が写真撮ってったわよ。昨日は神谷さんと栗原さんとささっさんが一緒に来て、その後はケイトと部長さん。多分そろそろ、涼風コンビが来るんじゃないかしら」
 ――お正月。美術部のみんなから、ピーちゃんの年賀状が届いた。
「あちゃ~。見事にかぶっとったねぇ」
「全員同じ題材だったなんて。でも、考えてみたら当たり前ね……」
 みんなの年賀状を見比べながら、麻生さんと鳥飼さんは頭を抱えていた。
 でも、みんなそれぞれ構図も絵柄もバラバラだったので、やはりセンパイたちはすごいと思う。
「新学期、先生に何か言われそうね。『個性がない』とか」
「そげな事なかよ。ほら、先生の年賀状」
「あ……ピーちゃん」


 お世話になった皆様に毎年一方的に送りつけております「あけまして短編」。今年は久々にスケッチブックの二次創作でした。

 自分で解説するのもアレですが、このお話の隠れたキモは3人の反応だったりします。
 お気楽な夏海は「あーネタかぶっちゃった」程度の感想ですが、心配性の葉月は「別の題材にしておけば……」と若干後悔しています。
 ただし、2人とも潜在意識では、部員それぞれの構図や絵柄の違いを認識しているはずです。なんたって美術部ですので。
 繊細()な空だけが、そのことを明確に意識している……というわけで、3人の反応にも個性が出ますよ、というお話でした。
 で、もうひとつの隠れたキモは、美術室を訪れる部員の組み合わせです。そのへんは語りはじめるとウザくなるので割愛。

 あけましておめでとうございます。
 本年も当ブログをよろしくお願いいたします。