歌鳥のブログ『Title-Back』

歌鳥の小説やら感想やらなにやらのブログです。よしなに。

【本】銀河の壺なおし

 また変な本を読んでしまいました。


 ジョー・ファーンライトは父の代から続く腕利きの“壺なおし”、ですが壺(というか陶器)そのものが激減した時代にあって、彼は開店休業状態でした。そこへ突然、ありえない方法で伝えられた依頼。遠い異星の通貨で莫大な報酬を提示されたジョーは、半信半疑で宇宙船に乗りこみます――。

 まず驚いたのは、主人公が本当に「壺なおし」だったこと。なんか比喩的なものだと思ってたので。
 さらに読み終えて驚きました。初期の未熟なころの作品かと思ったら、解説によると書かれたのは『電気羊』と『ユービック』の後だそうで。えー……。なんでこんなんなってんの。

 というわけで感想としては「うわあ……」って感じでした。決して面白くないわけではないのですが、なんというか、とっちらかったおもちゃ箱みたいな感じで。
 あれこれ考えてみるに、そんな中途半端な感想に至った理由は――というところで改行。








 その理由はメインのプロットにあると思います。
 プラマウンズ・プラネットという異星における、神々同士の争い。それが本作のメインになるわけですが……ぶっちゃけ、ほぼ他人事なんですよね。主人公にとっても、読み手の私にとっても。
 これが地球の神々の争いなら、もしくは(タイトルから連想されるような)銀河系全体を支配するような神々の争いなら、話は俄然面白くなったと思うのです。
 どっちが善でどっちが悪、という話でもないし。単に思い入れだけの問題で、どっちが勝ってもあんまり違わないし。

 とはいえ、さすがのディック。面白い、らしい要素も多分にありました。たとえば矛盾する予言とか、主人公にのみ語りかけるラジオ番組とか。
 前半の、完全ディストピアな地球の描写も最高です。夢の内容が統一されてるのは『電気羊』のムードオルガンを思い出します。“歩くスピードが違うだけで処罰の対象となる”世界観は、“ドアを開けるだけで税金がかかる”『ユービック』の世界とどこか似ています。
 やはり同時期に書かれた作品だけはありますね。ディックは嫌な世界を描くのが本当に上手い。

 最後の1文、解釈はいろいろあるようですが……。個人的には「主人公は新たな1歩を踏み出しました。どっとはらい」みたいなお話だと思いたいです。
 が、これってあんまりディックっぽくはないですね。
 やっぱり「個人がいくらあがいたところでどうしようもない」みたいな無力感、が結論でしょうか。