歌鳥のブログ『Title-Back』

歌鳥の小説やら感想やらなにやらのブログです。よしなに。

【わたモテ】序章:私がここまで夢中になったのはどう考えてもこいつらが悪い。

 毎度ご無沙汰しております。

 また半年もブログを放置してしまいました。いろいろあるとはいえサボりすぎだ……。
 サボってる間になにかと告知もありまして。まずもって絶対的にお知らせしておかなければならないのは

ヤフーブログが今年12月で終了しちゃうそうです。

 これから引越し先を探さねばなりません。困ったものです。どこかにいいブログないですかね、と、ここで相談するのもどうかと思いますが。

 その他の告知もおいおいさせていただきますが、その前に。
 個人的に、これはどうしても書いておきたいネタがありまして。
 ブログ終了前の微妙な時期ではありますが、とりあえず書いてみたいと思います。……とはいえ、とても1回で終わる内容ではありませんで。長文苦手な方は申し訳ありませんが我慢してください。
 と、ここからようやく本題。


https://www.ganganonline.com/contents/watashiga/

『わたモテ』です。

 正式なタイトルは『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』。かつてはアニメ化もされていました。現時点でコミックスが15巻まで出ている、なかなかの長期連載です。

 で、その長期にわたる連載の間に、ストーリーが大幅に変化してまして。
 初期の『わたモテ』は

 コミュ障かつ陰キャ、さらにネガティブ思考のうえに品性下劣な主人公が、ぼっち生活から抜け出そうと斜め上の努力を繰り返し、あげくに自爆するさまを楽しむ

 という趣旨の漫画でした(アニメ化されているのはこのあたりです)。
 で、今現在の『わたモテ』がどうなってるかといいますと。

 ゲスで下劣な主人公の周りになぜか女の子が集い、互いを牽制しあう百合ハーレム状態を形成しつつ、各キャラがそれぞれの物語を展開させる青春群像劇

 とまあ、まるで途中からいきなりバトルが始まるジャ○プ漫画みたいな変化っぷりです。が……また後日触れますが、これ決して“劇的変化”ってわけじゃないんですよね。そこがこの漫画の恐ろしいところなのですが、閑話休題

 私が『わたモテ』を読み始めたのはわりと最近でして。
 アニメ放送時にも存在は知っていたのですが、ラノベっぽい長ったらしいタイトルがなんか嫌で敬遠していました。
 実際、序盤のストーリーはあまり好みじゃありません。

 が……最近になってツイッターでやたらと『わたモテ』の話題が増えました。
 更新日のたびにタイムラインがお祭り騒ぎ――というか、下手すると更新日の前日から

「明日は更新日だ」

 とざわめき始める、実に恐ろしいことになっています。

 で、さすがに気になって自分でも読んでみました。
 最初はそれほどハマらなかったのですが、何度か読むうちに「ん? このキャラどうなってんの?」「この子なんでこんなことになってんの?」と、いろいろ気になりはじめまして。
 いろんな手段を駆使して全巻通し読み、それでも疑問が解消されなかったのでもう一度読み返し、同時に最新話もチェックし――とかやってる間に、気づいたら自分もお祭り騒ぎに加わってました
『わたモテ』的な表現でいうと“蠱惑された”わけです。

『わたモテ』の大きな特徴、というか性質のひとつに「やたら語りたくなる」というのがあります。
 更新のたびにスレッドが複数立ち、まとめサイトが乱立し、ハッシュタグ「#わたモテ」は濁流と化します。さらにはあっちこっちの個人ブログに、それぞれの方の感想が掲載されます。
 で、自分でもなんか書いてみることにしました。
 とはいえ更新のたびに毎回なんか書くほどの体力はないので、気になるキャラ数人にスポットを当てた形でのご紹介になります。

 ……と、イントロだけでこのボリュームになるわけでして。『わたモテ』の「語りたくなる力」は恐ろしいものがあります。
 おそらく次回からはもっと長くなると思いますので、皆様覚悟のうえでおつきあい願います。
 と……その前に、これもやっぱり私にとっては重要な、もうひとつの漫画について語ることになるかもしれません。もうすぐ25日になっちゃいますので。


おなかに記念品

   あけまして短編『おなかに記念品』

「ねえ舞、藍音」
 1月3日の夕方、由佳里は思いつめた様子でやってきた。
「どうしよう、これ」
 そう言って開いたお財布には、お札がぎっしり。
「由佳里、どこ襲ってきたわけ?」
「犯罪者?」
「どこも襲ってないし、拾ったんでもないって」
 それは、中1の冬休みのこと。
 年末年始、由佳里は大忙しだった。バスケ部は30日まで練習があって、年明けは4日から。大晦日から3日までの4日間で、由佳里は両親それぞれの実家と親戚の家を、駆け足で回ったらしい。
「全部の家でお年玉もらってさ、気づいたらこんなんなってた」
「それ全部持ってきたわけ? 家に置いてきなさいよ」
「ん~、なんかノリで」
 数えてみたら、10万円以上あった。
「ねえ、これどうしよっか?」
「どうって、好きに使えばいいじゃない」
「貯金とか」
「じゃなくてさ~。せっかくこんなにあるんだから、なんか有意義なことに使いたいじゃん」
「有意義って?」
「わかんないけど、なんか記念になること。10万記念」
「えげつないよ、それ」
 そんなわけで、もう日もくれた駅前に3人で出かけた。
 街はとんでもなく賑わっていた。初売りセールとかで、いろんなお店で安売りしているらしい。
「由佳里、シューズ欲しがってなかった?」
「ゲーム安いよ。2割引だって」
 私と舞の提案に、由佳里は納得しなかった。
「じゃなくって、なんか3人で使えるのがいいんだよね」
「ストラップみたいな?」
 と、舞が自分の携帯ストラップをゆらゆらさせる。
「ストラップはあるから、なんか別のがいいな。ん~」
 悩みながら歩いていた由佳里は、突然「そうだ!」と叫んで、私と舞を駅ビルの洋菓子店に引っ張っていった。
「これ! これ買う!」
 そう言って指さしたのは、地元の地名が書かれたマドレーヌ。
産品だ。
「……は?」
 呆れる私たちに、由佳里は喜々として説明した。
「田舎行く前に、お母さんがいっぱい買ってたんだよ。すっごいおいしそうだな~って思ってたのに、お母さん向こうで全部配っちゃってさ」
「そりゃそうでしょ。お土産なわけだし」
「普通、お土産は自分で食べない」
「だからだよ!」
 と、由佳里は得意げに胸を張った。
「2人とも、これ食べたことないでしょ?」
「……」
 私と舞は顔を見合わせた。確かに、地元のお土産なんて、食べる機会はそんなにない。
「ほら~! だからいいんじゃん! すみませ~ん、これください!」
 由佳里は結局、マドレーヌのいちばん小さい詰め合わせを買った。もちろん10万円もするわけじゃないけど、由佳里はそれで満足そうだった。
 3人で由佳里の家に寄って、紅茶といっしょにマドレーヌを食べた。ふわふわで甘くて、いい匂いがした。
「美味」
「ん、おいし~♪」
 舞と由佳里は満足げだったけど、私はまだ納得できなかった。
「確かにおいしいけど、これのどこが記念なわけ? 食べちゃったら、どこにも残らないじゃない」
「んなことないって。ほら、ここに残るって」
 と、由佳里は自分のお腹をぽんぽん叩いた。
「ぷっ」舞が吹き出した。
「……そんな記念品、すっごく嫌」
 私は顔をしかめた。
 やっぱり納得はできなかったけど、結局は由佳里のお金なのだから、私に文句は言えない。
 それに、由佳里らしいお金の使い方だな、とは思う。
「あ、忘れてた。2人とも、あけおめ」
「今さら?」
「あけおめ、由佳里ちゃん」




 というわけで、今年のお正月用短編です。
 この調子で毎年由佳里たちに登場してもらっていたら、そのうち小1から中3までの9年間使い切っちゃいそうです。
 すでに3回使ってるからあと6年……。6年の間に、どうにかして本編を終わらせないと。

 帰省もしていないのにお腹に記念品が溜まっている歌鳥でした。
 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

検証:ゆるキャンはどこまでスケッチブックか?

 なんか久しぶりすぎてブログの書き方すっかり忘れてます。



 えー、さて。本題です。
 このアニメが放送されている最中、たしか3話めか4話めのあたりで、ふと思いました。
「このアニメ、雰囲気がスケッチブックに似てるなあ」と。



 なんとなく漠然とそう感じただけなのですが、その後ツイッターのタイムラインにじわじわと「スケッチブックみたい」「似てる」という声が広がっていきました。
 まあ当然、私のTLがそっち方面に偏っているのもありまして。一般的な認識とは言い難いかもしれませんが。
 ともあれ、この『ゆるキャン△』を見ていて『スケッチブック ~full color's~』を思い出した人は、私1人ではなかったようです。

 というわけで。
 ここはひとつ「どこがどう似ているのか」を検証してみようかと思います。特にネタバレとかはしない予定ですので、両方ご存知ない方もごゆるりとお読みください。

・テンポがゆっくり。
ゆるキャン△』序盤の大きな見せ場が、しまりんがキャンプ場を探索する場面でした。
 基本ずーっと1人で行動しているわけで。特に波乱もなく、派手なギャグも(いくつかの小ネタ以外には)なく。しまりんの独白とナレーション、たまに松ぼっくりがしゃべるくらいの、淡々としたシーンが続きます。
『スケッチブック』でも、梶原さんが1人で黙々と行動する場面が多くありました。
 何かしらの会話だのアクションだのがないと、普通は間が持たないと思います。こういう淡々とした場面に、ゆったりと時間を費やしてしまうアニメ、他にはなかなか類を見ません。

・背景が美しい。
 で、それに関連しまして。
 映像の美しさは、両者に共通する大きな魅力のひとつです。
 手間暇かけて、時にキャラクター描写を犠牲にしてまで描く大自然の背景は一見の価値ありです。淡々とした場面でも間延びせずに楽しめるのは、この美しい背景の力も大きいでしょう。

・音楽も美しい。
 なんか似たような内容が続いてしまいますが。
『スケッチブック』では村松健さんのピアノ。『ゆるキャン』ではケルト風。ジャンルは全く異なりますが、どちらも音楽単体で堪能できる、心地よい音楽です。
 ケルティックって山の風景に合いますね。サントラ欲しいなあ……。

・シュールなギャグ。
 これはフォロワーさんのご指摘で「おおなるほど」と思った点です。
ゆるキャン』には『へやキャン』というミニコーナーがありまして。本筋とはまったく関係ない、ちょっとした小ネタを披露してくれます。
 で、これが『スケッチブック』の涼風コントによく似てる、とのご指摘がありまして。
 確かに、あの唐突さとネタのシュールさには共通するものがあります。特に「そばうどん」の意味不明さは、涼風コントを思い出させるシュール具合でした。

・ソロ活動が多い。
 と、これが今回最大のポイント、かつ両方のアニメにおける最大の特徴です。

 普通の学園もの、特に部活ものアニメともなれば。
 まず最初に出会いがあって、入部の際のちょっとしたイベントがあって。
 その後は3人なり4人なり5人なり、全員が一緒に行動することでお話が展開してゆく――というのが一般的だと思います。

 一方『スケッチブック』では。
 登場人物は美術部員ではありますが、基本それぞれが好き勝手に行動してます。特に主人公の梶原さんは単独行動が多く、1人で探索したりお絵かきしたり、ギャグを飛ばしたりします。

ゆるキャン』においては。
 そもそもしまりんと恵那の2人は、野クルに入部すらしていません。
 しまりんは1人キャンプがメイン。なでしこはしまりんにつきまとった結果、フラれて1人での行動も多くなります。
 野クルの先輩2人も、それぞれ別のバイトしてたり、千明1人だけでキャンプの下見に行ったり、常に一緒ではありません。
 さらには、あれだけ人懐っこいなでしこも、最後には1人キャンプを決行してしまうわけで。
 5人が一緒に登場したのって、中庭+図書室でのドタバタと、後は最後のクリスマスキャンプだけではないでしょうか。

 最初の項目にも書いたように、キャラが単独で行動すると、展開がまったりと遅くなります。
 そのまったり展開でも充分楽しめるアニメ、というわけで。
 映像や音楽の美しさに加えて、キャラが魅力的なので、見る側も退屈せずにまったりできるのでしょう。つまりは、すべてが高水準なわけです。

 他にも・顧問が酒飲み、・非人間がしゃべる、等の細々とした共通点があります。
 これだけ共通項が多いのですから、もう

ゆるキャン』は『スケッチブック』である

 と言っても過言ではありません。
 ……いやまあ多少過言ではありますが、それでも『スケッチブック』2期に飢えていた私にとって、『ゆるキャン』は心の隙間を埋めてくれるに充分すぎるアニメでした。
 要するに、ここで声を大にして言いたいのは

 『ゆるキャン△』を気に入ってくれたそこのあなた、
ぜひ『スケッチブック ~full color's~』も見てみてください!
きっと気に入りますよ!

 ということです。
 よく言われることですが、『スケッチブック』は時代が早すぎたなぁと……。今制作されていたら、もっと人気が出たのではないでしょうか。
 まあ個人的には人気なんてどうでもいいんですが、『ゆるキャン』続編の情報に触れてしまうと、やはりうらやましいな~と思ってしまいます。

【アニメ】ゆるキャン△

 大慌てでこれを書いております。

 なんと今年の正月を最後に更新してなかったという。ブログ初めて以来の恐るべき事態です。
 さすがにこの状況はどうかと思うので、今年がまだ終わらないうちに書いておこうかと。というか、これだけはどうしても書いておきたかったので。



 アニメの感想です。
 結論から先に言いますと、この10年で最高のアニメでした。

 冬。山梨へ引っ越してきたばかりの高校1年生・各務原なでしこは、迷いこんだキャンプ場で1人キャンプをしていた志摩リンに助けられます。焚き火の温もりと夜の富士山の美しさ、カレー麺のおいしさに感激したなでしこ。アウトドアの楽しさに目覚めた彼女はさっそく転校先の高校で“野外活動サークル”に入部。先輩の大垣千秋と犬山あおいと出会い、意気投合します。
 一方、偶然同じ高校に在籍していたリン。1人きりのキャンプを楽しみたい彼女はなでしこを敬遠していましたが、人懐こいなでしこの勢いに押され気味。旧友・斉藤恵那の後押しもあり、2人の距離は徐々に縮まってゆきます。
 そしてクリスマスの夜――。

 タイトルどおりのゆる~いキャンプを題材とした日常系アニメ。
 と、いまさらご説明するのもアレですが……。すでに2期やら映画化やらも決定している、大ヒットアニメ作品です。

 とにかく主人公2人がかわいくてですね♪
 歌鳥の普段の好みでいえばしまりんの方が推しなのですが、なでしこの子犬みたいな人懐っこさがもう。ロリガの時にも思いましたけど、花守ゆみりさんの声は破壊力がすさまじい。
 野クルの先輩2人が飛ばすシュールなギャグやら、恵那としまりんのラインによるやりとりやら、笑いどころは満載です。

 キャラの魅力もさることながら、映像の美しさが際立ちました。
 特に、5話のアレ。
 夜景を交換する場面で、なぜか毎回泣いてしまいます。“映像が美しい”ってだけでも、泣けることがあるんですよね。
 よく似たテーマのアニメ『ヤマノススメ』の富士山回を思い出しました。あちらは「同じ場所にいるのに、違う感情を抱いてしまう」お話。こちらは「違う場所にいるのに、同じ思いを共有する」お話。どちらも名作で、名場面です。

 そして最終話。クリスマスキャンプもつつがなく終わり、意外とあっさり終了……かと思いきや。
 最後の最後に、どでかいプレゼントがありました。
 どうやら原作にはない、アニメオリジナルの場面だったようで。5話のアレにも匹敵する、本当に美しい展開でした。“展開が美しい”でもやっぱり泣けます。

 え~、さて。
「最高」とか言ってるくせに、このページはここで終わるのですが。
 実はその他に、どーしても書いておきたいポイントがありまして。というか、実はこの後が本題だったりします。
 ということで、すみませんが次のページに続きます。頑張って今年中に終わらせます。

おあずけまいちゃん

   あけまして短編「おあずけまいちゃん」

 舞は3日の午後、晴れ着姿で帰ってきた。
「うわっ、まいちゃんかわい~!」
「本当にかわいい。どうしたの、それ?」
 家の前で待っていた由佳里と私は、舞の晴れ着を口々に賞賛した。けど、
「……」
 舞はなにも答えなかった。目は由佳里の胸元に釘付け。
「それ、どうしたの?」
「あ。この子ね、おとなりの子!」
 由佳里は腕の中に、毛むくじゃらの小犬を抱いていた。
「おとなりがおでかけだから、うちで預かってるの!」
 舞は子犬に手を伸ばしかけて、慌てて引っこめた。
「着物、よごれちゃう……」
 お正月、舞はおばあちゃんの家にお泊りしていた。向こうで晴れ着に着替えて、帰りに初詣を済ませてきたのだそうだ。
「夕方おみせに返すんだって。よごしたら怒られちゃう」
「え~、そうなんだー」
 由佳里はがっかりした声で、でもちょっとだけ頬を緩ませて、
「みんなでワンコと遊べると思ったのにな~」
 私は動物が苦手で、犬には触れない。舞が来る前は、由佳里がひとりで犬と戯れていた。
 午後も犬を独占できると知って、由佳里はほんのすこしだけ、嬉しそうだった。
「……む~」
 まんまるの目で子犬を見つめて、舞はうなった。
 ――着替えて犬と遊びたい。でも、晴れ着を着られるのは夕方まで。
 舞の内心の葛藤が、私にも伝わってきた。じっと立ちつくしたまま、指先をぷるぷる震わせる舞は、おあずけされた犬みたいだった。
「待ってて!」
 いきなり叫んだかと思うと、舞は家に駆けこんだ。1分後に戻ってきた時には、舞はてるてる坊主になっていた。
「遊び行こ!」
「まいちゃん、それ……」
 舞は晴れ着の上から、ビニールのゴミ袋を着ていた。真ん中に穴をあけて、頭だけ出した格好。両手はビニールの中で、辛うじてもぞもぞしている。
「きゃははははっ! まいちゃん、かわい~!」
 由佳里がけたけた笑った。
 私はびっくりして、笑うところじゃなかった。
 せっかくの晴れ着なのに、てるてる坊主では台無しだ。手が使えないから、抱っこもできない。
「それ……いいわけ、それで?」
「あったかい」
「……そうだろうけど」
 ――結局、舞は暗くなるまでてるてる坊主だった。
 両手を使えないまま、舞は子犬と追いかけっこをしていた。由佳里はそれを見て笑い転げ、私はそんな2人を見て笑った。犬と遊べなくても、充分楽しかった。

 お正月、晴れ着を着た女の子を見かけると、つい思い出して笑ってしまう。
 小1の冬の、ちょっとした思い出。



 年賀状がわりに毎年皆様に送りつけている「あけまして短編」、今年の分です。
 ネタに苦しんだ時は文章が長くなる傾向がありまして。このお話、予定ではこの3倍くらいありました。どーしても必要な箇所を残してばっさり切った結果がこれです。
 削った部分が悔しいので、個人的にどーしても入れたくて悩みに悩んだ

 舞ちゃんが着物を脱ぎたがらなかったのは、道中お兄ちゃんに「かわいい」と褒められたから

 というネタを、今ここに記しておきます。

 あけましておめでとうございます。
 本年も当ブログをよろしくお願いいたします。

【過去作品サルベージ】マウスtoマウス

   あけまして短編「マウスtoマウス」

「じゃじゃーんっ!!」
 派手な効果音とポーズつきで紹介されたのは、妙な飾りのついたマウスだった。
「何、これ……?」
「リアルマウスですっ!」
 もともとがネズミに似た形状のマウス。彼女のパソコンに付属しているそれは、灰色で
よりネズミっぽい。そこに加えて彼女は、頭と脚、そして長いしっぽをつけたのだった。
「リアルマウス……ねえ」
「はいっ!」
 自分の新しい発明品(?)を紹介するとき、彼女はなぜか敬語になる。つきあって何年
にもなるのに、この癖はいまだに変わらないらしい。
「これはですねー、手足にちいさいタイヤが忍ばせてあってですね、こうやって転がすと
……」
 彼女は机のうえでマウスを動かしてみせた。
「ほらっ、手足が動くのです!」
 マウスの動きに連動して、小さな四本の脚がかたかた動く。おまけに、どんな仕掛けか
は知らないけど、目まで赤く光った。
「ねっ、すごいでしょ~っ!?」
 確かに、よく出来てはいる。いるんだけど……。
「ちょっと……使いづらそうだな」
「そうですか~?」
「うん……それにちょっと気持ち悪いし」
 リアルマウス、というだけあって、粘土で作ったらしい顔は本物のネズミそっくり。
ちゃんとヒゲまで生えている。うまく出来ているぶん、かえって不気味だった。
 ──かわいくデフォルメするとか、そんなことは考えなかったのだろうか。
「そうかな~。かわいいと思うけどな~」
 彼女はがっくりと肩を落として、本物そっくりのマウスの頭を指先で撫でている。背中
を丸めたうしろ姿が、ハムスターみたいに頼りなく見えた。
「……まあ、でも、すごいじゃん。気に入ったよ」
 僕は彼女にそう告げた。ほかに何て言える?
 彼女は顔を上げて、うるんだ瞳で僕を見た。
「本当ですかっ!?」
「うん。よく見ると結構かわいいし」
「でしょ~っ!?」
 彼女の顔がぱっと明るくなった。嬉しそうに何度もうなずきながら、彼女は机の引出し
から、ちいさな紙袋をとりだした。
「はいっ、じゃあこれ、おみやげ!」
 開けて覗いてみると、中にはバラバラになったネズミの頭と手足が。
「……何これ?」
「リアルマウスセットです!」
 彼女は自慢げに胸を張った。
「このセットを装着するだけで、あなたの家のマウスがリアルマウスに早変わりするの
ですっ!!」

「じゃ、またね~っ!」
 玄関の前に立って、満面の笑みで手を振る彼女。しばらく歩いてから振り向いたときに
も、彼女はまだ勢いよく手を振っていた。
 角の手前でもう一度立ち止まり、手を振りかえす。角を曲がってしまうと、もう彼女の
姿は見えない。
 僕は重い荷物を背負いなおした。デイパックの中には着替えと同僚へのおみやげ、それ
に彼女のリアルマウスセットがちゃっかりと収まっている。
 ──今から1時間後には、僕は夜行バスに乗っているだろう。
 短い正月休みも今日で終わり。次に彼女と会うのは夏休みか、それとももっと先か。
 それまでの間、僕たちはメールかボイスチャットで会話することになる。僕たちのパソ
コンが――マウスが――二人をつなげてくれるわけだ。
「リアルマウス、ねえ……」
 気持ち悪いけど、使いづらそうだけど……まあ、すぐに慣れるだろう。
 もう一度デイパックを背負いなおしてから、僕はバス停へ向かって歩きはじめた。


 更新日時が2008年の1月になっているので、たぶんその年のお正月用短編です。古いですね。
 過去作品漁っていたら出てきたので、年の瀬に載せておきます。……というかいい加減新作を書かなければ。それ以前に来年の正月用のあけまして短編、まだネタすら考えていない……。

 ええと、皆様よいお年を。来年もよろしくお願いします。

【本】ルーフォック・オルメスの冒険

 具合が悪い時にはブログを書く、という習性の私です。


 最近変な本ばかり読んでいるなあ……と思いつつ、極めつけに変な本の感想を。フランスのユーモア作家カミによる、シャーロック・ホームズのパロディです。

 名探偵ルーフォック・オルメスの元に持ちこまれる事件は、奇妙でイカれたものばかり。「自分の頭蓋骨を盗まれた」と主張する男。童謡を歌いながら息絶えた老人と、その横で死んだ若い女。巨大な赤ん坊に襲われ、殺された牛乳屋……。聞いただけでも頭がおかしくなりそうな数々の事件を、オルメスは天才的な頭脳でことごとく解決してゆきます。

 タイトルについては、↑サイトの紹介文を一部引用します。
“名探偵ルーフォック・オルメス氏。オルメスとはホームズのフランス風の読み方。シャーロックならぬルーフォックは「ちょっといかれた」を意味する。”
 個人的には、「ちょっと」というのは控えめな表現ではないかと。事件そのものも、それを解決に導くオルメスの手法も、どちらも相当イカれてます。
 そして、相当下らないです。
 どのくらい下らないかというと、吉本新喜劇と同レベル……と言うと怒られるかしら。
 全部で34編もあるので、中のひとつをネタバレさせていただきますと……“「電波」の波に乗って、空をボートで逃走する盗賊団”とかが登場します。徹頭徹尾、隅から隅までこのレベルの下らなさです。
 この下らなさがクセになります。

 下らなさの半分くらいは下らないダジャレで構成されてまして、こりゃ訳者さんはそうとう苦労されただろうなーと。
 で、時々、その訳者さんによる注釈が入ります。これがまた結構面白くてですね。
“~と読者は思っただろう。訳者も思った。いや、別にそれだけである。――訳者”
 ここでリアルにコーヒー吹きました。

 カミの他の作品と同様、この本も戯曲風の形式になっています。
 よって、発言者の名前が行頭に提示されるのですが、この名前がこんな具合でして。

   虫も殺さぬ顔の盗賊
   嗅ぎ煙草を鼻に詰めたプロンプター
   事態にあわてた産婦人科

 このネーミング、往年の名作RPG『ボクと魔王』に登場した「決意するおねーさん」などを思い出させます。

イメージ 1

 画像は拾い物です。古いゲームなので許して……。
 で、途中から登場人物を『ボクと魔王』のキャラっぽく脳内変換しながら読みました。これがまたドはまりで。形式は戯曲ですが、人形劇のほうが向いてるかも。

 全34の短編は、大きく2つに分けられています。
『ルーフォック・オルメス、向かうところ敵なし』と題された前半は、オルメスの有能さをひたすら誇示するお話。そして後半は『怪人スペクトラと戦う』のタイトルどおり、天才的犯罪者とオルメスとの壮絶な戦いが描かれています。
 そう。下らないと言いつつ、意外としっかりしたストーリー展開がなされているのです。
 特に後半、宿敵スペクトラとの戦いは本当にスリリング。一進一退、捕まえては逃げられるスペクトラとの頭脳戦は、本家ホームズとモリアーティ教授との対決を上回る白熱ぶりです。……というか、本家の教授ってあんまり出てきませんが。

 最後の短編、スペクトラとの最終決着が描かれる『巨大なインク壺の謎』がいちばん好きです。こんな状況になれば私も傑作が書けるかしら、とか思いながら……。